こんにちは。
今回は、「極悪女王に出てくるブックって何?」というお話しです。
ブックとは?あったという意見となかったという意見
ブックというのは、試合の勝ち負けをあらかじめ決めておく行為のことです。
表向きは真剣勝負をしているように見えますが、実は試合の前から筋書きは決まっており、選手たちはその通りに試合を決着させます。
「観客を欺く行為だ」と批判する声は多い一方、「プロレスは真剣勝負の競技ではなくエンターテイメント。つまりショーなのでやらせとか八百長といった概念は当てはまらない。」と肯定する人たちもいます。
実際、クレーンユウさんはYoutubeで「(極悪女王の中で)ブックという話があったが、それも含めて仕事だと思っている」とおっしゃっています。また、全女が沖縄でダブルブッキングした際は、片方の会場で試合を終えた選手がもう一方の会場に駆け付けなきゃならないことになり、選手到着まで試合の決着を長引かせたりといったこともあったそうです。ブックとは違いますが、試合内容を差配しているわけで、ブックはこのあたりの延長戦上にあるという見方もできます。
一方、後述しますがジャガー横田さんのように「ブックという言葉自体が存在しない」とする主張もあります。
当時の女子レスラーでさえ「あった」と暗に認める人と「なかった」と断言する人に分かれるわけですから、事実を外側の人間が知るのは難しいでしょう。個人的には「ブックはあったけど常にやっていたわけではなく、みんなが知っていたわけでもなかった」といったニュアンスで捉えています。
ブックという言葉が登場するのは何話?
3話
極悪女王でブックという言葉が最初に使われるのは3話です。
全日女子プロレスを経営する松永兄弟の一人、国松が、プロモーターの阿部四郎に
「今日のメイン、横田がブックなしでやらせろって」
と話すときです。このシーンは、岡崎体育館でのメインを前にしたシーン。
メインのカードは「ジャガー横田&ラブリー米山対クラッシュギャルズ」という組み合わせですが、実は興行側の思惑により、ジャガー横田が長与千種を負かして勝利を収めるという筋書きが決まっていました。興行側の思惑とは、岡崎市のスポンサーにジャガー横田のファンが多いからジャガーを勝たせてスポンサーに喜んでもらおうという思惑です。
結局、ジャガーの直談判は却下されてしまいますが、ジャガーはその後、飛鳥に対して
「今日の試合 ブック関係なく来ていいから。」
と伝えます。試合は千種が負けるべきタイミングでジャガーを負かし、「ブック破りだ!」と試合後にもめることになります。
実はこのシーン、ジャガー横田ご本人は完全に否定されています。「ブックという言葉も概念も当時はなかったし、私は後輩に一度も負けたことはない。でもドラマを面白くするための脚色なので仕方ない。」とご自身のYoutubeチャンネルの中で明かされています。また、ライオネル飛鳥さんもこのシーンはフェイクだとジャガーさんの旦那さんである木下医師に伝えてきたそうです。
4話
次にブックが話題になるのはオールジャパングランプリの準決勝、長与千種対ライオネル飛鳥戦です。トヨテレビサイドから長与千種とダンプ松本で決勝戦をするよう要望された松永兄弟の俊国は、社長の高司に千種を飛鳥に勝たせるよう働きかけます。しかし高司はガチンコ勝負を主張し拒否。
その後、千種も自分を勝たせろと俊国や高司に直談判します。
「ルール?これまでさんざんブックでやらせてきたやろ?」(千種)
「ブックで飛鳥に勝たせろってか?」(俊国)
千種から直談判された高司はブックを受け入れたような返事をするものの、結局動かず試合はガチンコ対決で飛鳥が勝利します。
本当は千種が勝負を決めるタイミングでも決まらないので、千種が飛鳥に対し、
「何も聞いとらんと?決勝はうちって言われたやろ!」(千種)
と小声でつぶやくシーンがあります。
5話
ダンプ対千種の髪切りデスマッチでもブックが行われます。背景にはトヨテレビの強い要望がありました。
- 人気者の千種が負けて坊主になる様子をゴールデンで流すのは問題がある
- 千種が抱えるミュージカルやドラマの仕事上も不都合が大きい
- 千種が勝ってハッピーエンドなら中継してもOK
ということです。トヨテレビ側は中継打ち切りもほのめかしており、全女にとっては会社の存続をも左右するブックです。俊国は1000万円でブックをダンプに了承させます。
こちらはダンプに念書を書かせるシーン。「日本女子プロレス連合の意思に従い長与千種選手との試合を執り行うことを誓約いたします。」と書いてますね。
結果はどうだったかというと、ダンプがブック破りをして千種が敗北。丸坊主になります。
このシーンですね。
ブックは当たり前のように描かれている
極悪女王の中ではブックは1話のビューティペアのくだりから当たり前のように描かれています。興行主である松永3兄弟はもちろん、ジャガー横田やジャッキー佐藤といった選手側も当たり前のように受け入れているように見えます。
中でも長与千種が最もブックに積極的で、オールジャパングランプリの際には「武道館のメインはうちしかおらん」「飛鳥とジャガーさんのメインでファンは納得するね?」などと俊国に自分が勝つようにお膳立てしろと強く働きかけています。俊国が拒否すると、今度は社長の高司に直談判までしてましたね。
また、ダンプとの髪切りデスマッチの前、松永国松からダンプが負けるという筋書きを聞いた際も「会社はホントにダンプば抑えてくれるとよね?」と念押ししています。
ブックは八百長?やらせ?
こうなってくると、「プロレスはやっぱり八百長だ」と言い出す人がいますが、この認識は間違っていると思います。
ウィキペディアで八百長を調べると、以下のように書いてあります。
八百長(やおちょう)とは、前もって勝敗を打ち合わせておき、表面だけ真剣に勝負を争うように見せかけること。
引用:ウイキペディア
この文面にはまさにブックが適合しているように思えますが、プロレスは命を懸けた真剣勝負の戦いというわけではありません。もちろん身体をフルに使うので体力も使うし命の危険だってありますが、食うか食われるかのガチンコ勝負ばかりではないということです。
個人的にはプロレスの大前提は、格闘技のように行うショーだと思います。プロレスラーたちは真剣にショーを演じている、と思えばすべてのつじつまが合います。
私も子供の頃からプロレスにはまり、実際に会場まで足を運んでいましたが、どう見ても技が相手に届いてないのに相手がダメージを受けたように倒れたりといった現象を不可思議に思って観ていました。
当時は「プロレスラーが本気で戦ったらあんなものじゃ済まない。大けがするだろうし死人も出るはず。」という大人たちの指摘に反発してましたが、今から考えると腑に落ちます。
極悪女王でもダンプ松本がフォーク攻撃をしますが、フォークを相手の体に突き刺すなんて、加減しなければ成立しません。流血しているので身体を張っていることに違いはありませんが、あくまで演出の範囲内ということではないでしょうか。
まとめ
女子プロレスに限らず、男子のプロレスであってもブックの存在は公然の秘密と言われています。我々ファンは、そうした事情を分かったうえで、勝敗がつくまで繰り広げられる技の応酬を楽しんだらよいのではと思います。
関連本
全女時代のダンプ松本さんの心の葛藤や、友情、裏話などが書かれた一冊です。父親への思いや話題のお母さんの日記なども掲載されています。
ダンプ松本『ザ・ヒール』: 極悪と呼ばれて 平塚 雅人(著) 単行本1540円 |