ゆりやんレトリィバァさん演じるダンプ松本役が話題の「極悪女王」のあらすじやエピソードをまとめます。
極悪女王の大まかなあらすじ
極悪女王はかつて日本中から憎まれた史上最凶のヒール(悪役)レスラー、ダンプ松本の半生を描いたドラマです。松本香という心優しい少女が女子プロレスラーとなり、やがてダンプ松本へと変貌していく過程が彼女の苦悩と葛藤を中心に描かれています。また、ブックと呼ばれるプロレスの筋書きやクラッシュギャルズの確執なども盛り込まれており、彼女たちの戦いと裏側にある人間模様が丁寧に描写されています。
極悪女王
監督 : 白石和彌
主な出演者 :
ゆりやんレトリィバァ・唐田えりか・剛力彩芽・仙道敦子・芋生悠・音尾琢真・黒田大輔・斎藤工(齊藤工)・村上淳
脚本 : 鈴木おさむ・池上純哉
主題歌 : Awich
企画・プロデュース : 鈴木おさむ
原題:The Queen of Villains
ジャンル:ヒューマンドラマ
話数:5話完結
配信 : Netflix
ここからはネタバレ満載の詳細なあらすじやエピソードになります。
極悪女王1話
1話は松本香(のちのダンプ松本)の子供時代から全日女子プロレスに練習生として入門し、奮闘するまでが描かれています。ちなみに、物語の舞台となるのは全日女子プロレス。実話の方の団体は全日本女子プロレス。「全日」か「全日本」かの違いがあります。
あらすじ
松本家は貧しく、普段、香と妹(広美)の面倒を見ているのは母親の里子。父親の五郎はダンプ乗りだが、めったに家に寄り付かず、たまに帰ってきたかと思えば里子に金をせびり、気に入らないことがあればすぐ暴力をふるう。外に愛人を作り子供までもうけている。しかも愛人の子にも「香」という名前をつけていた。
その光景を目の当たりにした香は大きなショックを受け、雨の中、逃げるようにその場から走り去った。無我夢中で走った香が偶然たどり着いたのは、興行準備中の全日女子プロレスの会場だった。ミゼットプロレスのプリティアトムによって会場内に招き入れられた香は、練習中の一人の新人女子プロレスラーに目を奪われる。その新人レスラーこそ、のちの「ジャッキー佐藤」であった。
数年後、高校生になった香は女子プロレス、とりわけジャッキー佐藤の熱烈なファンになっていた。
高校卒業後は母親の里子が知り合いのパン屋へ就職の話をつけてくれていたが、既に女子プロレスラーになる夢が芽生えていた香は、パン屋の仕事を抜け出して全日女子プロレスの新人オーディションを受け合格、入門を果たす。
同じオーディションで北村智子(のちのライオネル飛鳥)、長与千種、本庄ゆかり、大森ゆかりらも入門。当初から才能を発揮してすぐにプロテストに合格した智子(ライオネル飛鳥)や大森ゆかりに対し、要領の悪い香と千種はなかなか合格できず。しかし、何度目かのプロテストで千種と対戦した香は自分が出血したことで覚醒。プロレスとは言えない殴り合いを始め、その様子が関係者の目を惹く。
エピソード
- 子どもの頃は飲み屋から出る空きビール瓶をこっそり集めて酒屋に売り、小遣いにしていた。
- 父親の五郎はかなりのろくでなし。
×家にほとんど帰らない
×帰ってきたら里子に金をせびる
×暴力をふるう
×外に愛人を作り隠し子もいる
×隠し子の名前も香
×口が悪く、香のこともデブと中傷 - 全日女子プロレスで焼きそばを売っているおじさん(高司社長)や五郎の元愛人に「好きなことをやった方がいい」と言われプロレスラーになる決意を固める。
- 長与千種は小学生の時に両親が夜逃げ。親戚の家をたらいまわしにされて育った。
極悪女王2話
1話で全日女子プロレスの絶対的なエースとして君臨していたジャッキー佐藤ですが、人気に陰りが見え始め、やがてプロレスから去る日がやってきます。会社として新たなスター作りが急務の時、会場を大いに盛り上げるファイトをするレスラーたちが現れます。
あらすじ
ジャッキー佐藤との引退マッチで敗れたマキ上田が引退したことで、全日女子プロレスの客入りはまばら。ジャッキー佐藤の人気にも陰りが見え始め、トヨテレビにも放送枠をゴールデンから外されてしまう。
危機感を募らせる社長の松永高司は、ジャッキー佐藤の人気を復活させるべく実力ナンバーワンとの呼び声高い横田利美とのカードを組む。ジャッキーにギリギリ勝たせてジャッキー人気を盛り上げようとするが、試合直前、社長の弟、松永俊国が横田に「ジャッキーに引導を渡せ」と高司とは反対の指示を出し番狂わせが起こる。横田利美に敗北したジャッキー佐藤はこの試合で「もう必要とされてない」と悟り、全日女子プロレスを去る。
香はプロテストには合格したものの、練習での動きがパットせずなかなかデビューさせてもらない。興行の宣伝カーに乗って宣伝係をやらされむくれるが、一緒に街宣したプロモーターの阿部四郎が社長の松永に直談判してくれ、ようやくデビューを果たす。デビュー戦の相手はモンスターリッパーという巨体の外国人レスラー。試合は一方的となり、香はあっさりとフォール負けを期す。
一方、千種はラブリー米山をはじめとした先輩レスラーから睨まれ、仲間外れにされてしまう。先輩たちから恨みを買ってしまった千種は全日女子プロレスを去る決意を固めるが、同期の北山智子からライオネル飛鳥としての改名デビュー戦の対戦相手を頼まれ、従来のプロレスの枠を取っ払って全力を出した戦いをすることを条件に引き受けることに。試合は壮絶なケンカファイトとなり、観客も関係者も試合にくぎ付け。新たなスターが誕生した瞬間であった。
エピソード
- 千種は練習中に先輩のラブリーの顔に空手の蹴りを入れてしまう。ラブリーたちからは睨まれるようになり、国松からは空手技を使うのを止められる。「プロレスはボクシングや空手と違う。受け身が取れる技で勝負すんのが鉄則だ。」(松永国松)
- 試合前、先輩レスラーであるあゆみの財布が紛失し、千種のバッグに入っていたとしてラブリーたちから責められる。千種は否定するもラブリーたちは取り合わず、目の敵にされるようになってしまう。
- 試合中、ラブリーから泥棒呼ばわりされ追い込まれた千種は、試合会場に来ていた両親を見たことがきっかけで逆上。ケンカファイトをしかけてラブリーを殴り倒し、セコンドたちが止めに入る大乱闘に。以降、ラブリーたちの千種に対する風当たりがさらにきつくなる。
- 千種が小学生の時に夜逃げしていた両親が女子プロのポスターを見て会場に現れるが、千種は両親に捨てられたと思っており「逃げたとやったらずっと逃げとかんね!」「もう顔ば見せんね」と冷たくあしらう。
- 横田利美はジャガー横田に改名。改名デビュー戦でデビル雅美を指名。
- 智子もライオネル飛鳥に改名。改名デビュー戦の相手に千種を指名。全日女子を去る決意を固めていた千種は最後に思いっきり戦うことを条件に対戦を了承する。
極悪女王3話
クラッシュギャルズが新たなスターの座につくと同時に全日女子プロレス内で軋轢が生じてきます。すべてをクラッシュ中心に回そうとする松永兄弟ら経営側と、それに反発するジャガー横田を中心としたベテラン勢。そんな中、香は本庄とともにデビル雅美率いるデビル軍団に入ることに。デビル軍団はクラッシュの好敵手となることが期待されるも、香は全く試合についていけません。
自分のふがいなさにあえぐ香。しかし、親友と思っていた千種、大事にしていた母親や広美との間に疎外感を覚える出来事が重なり、ついに香はキレます。
あらすじ
飛鳥と千種は一騎打ちをきっかけに新しいプロレスの道を見出し、クラッシュギャルズを結成。従来のものとは違う”激しいプロレス”は観客を魅了し、新たなスターとして注目を集め始める。単独インタビュー、雑誌の対談、レコードの発売などビューティペアのような扱いになってくるが、全日女子プロレス内でのパワーバランスがクラッシュに傾くことでジャガー横田らベテラン勢から不満が漏れるようになる。
また、松永兄弟ら経営陣は「クラッシュだけが人気になってもビューティーの二の舞になる」と危機感を感じ、デビル雅美率いるデビル軍団を対抗勢力に当て込む。香と本庄はデビル軍団に入ることになり、ヒールレスラーとしての教育を受けるが今一つピリッとしない。デビル軍団としてクラッシュギャルズと対戦した香は試合に全くついていけず、戦意を喪失。試合後はデビルらから「前座から出直せ」ときつく叱責されてしまう。
クラッシュ優先の会社に不満を抱くジャガー横田は、岡崎大会でブック(八百長)なしでクラッシュと試合をやらせろと俊国らに掛け合う。俊国からはあっさりと却下されてしまうが、納得できないジャガーは、試合前に飛鳥に「ブック関係なしで来い」と伝えて試合に臨む。しかし、試合では千種がブック破りをしてジャガー横田からギブアップを取ってしまう。その様子を社長の高司やプロモーターの阿部と観ていた香は、「スターになる選手は自分から光始める」という言葉を思い出す。試合後、千種はラブリーら先輩レスラーからブック破りを責められるが謝罪を拒否。飛鳥も千種の側について「今全女で客呼んでんのクラッシュですよ。」「先輩たちがリング降りたらいいじゃないですか」と啖呵を切る。
新人入門生として中野恵子(のちのブル中野)が入門してくる。中野が感動していた千種のインタビュー記事を香も読む。そこには「新人時代は孤独だった」「親友もいなかった」「さみしくてディスコに一人で行ったことがある」「そんな暗闇から救い出してくれたのが飛鳥」などと書かれており、入門生時代からの親友だと思っていた香は衝撃を受ける。
香の父親である五郎が「クラッシュギャルズに合わせてやる」とあちこちで吹聴し、千種のサイン色紙を売っていることが露見する。サイン色紙は母親里子に頼まれて香が千種に書いてもらったものだった。松永兄弟から事態の収拾を命じられた香が自宅に戻ると、そこには五郎の姿が。母、里子は五郎と別れたと思っていた香は、五郎や里子を責め始める。しかし、妹の広美や里子が五郎の肩を持ち始め、香は逆上する。「どいつもこいつもバカにしやがって!」
レスラーとしてふがいない自分、親友と思っていた千種のインタビュー記事、そして五郎の肩を持つ広美と里子。よりどころがなくなった香はしばらく行方不明となるが、全日女子プロレスの興行中、デビル軍団vsクラッシュギャルズ戦に突如姿を現し乱入。茶髪にヒールのメイクをした香は鉄のチェーンを手に巻き付け、クラッシュギャルズの二人やデビル雅美、レフリーをしていた国松に襲い掛かる。凶器攻撃で全員を蹴散らした香に会場からは「帰れ」コールが巻き起こるが香は悪びれることもなくさらに観客を煽る。
「ガタガタぬかすヤツは全員ぶっ殺すぞ!」
その他エピソード
- 当初、クラッシュギャルズではなくクラッシュビーという名前になる予定だった。あまりにダサいと飛鳥と千種がクラッシュギャルズにした。
- クラッシュギャルズに人気が出始めたことで俊国らは浮かれるが、トヨテレビの臼井は「ゴールデンに出すほどのタマじゃない」「何かが足りない」とさらに注文を付ける。プロレスなのでライバルが必要であり、そのためにジャガー横田とデビル雅美にペアになるよう持ち掛けるが、「なんでうちらがかませ犬みたいな扱いなの?」と断られる。結果としてデビル軍団があてがわれることに。
- 千種が入門した当初、会社から空手技を使うことはきつく禁じられていたが、クラッシュギャルズが人気になったことで空手も容認の方向に流れる。ジャガー横田はこれに「クラッシュなら何でもありなの?」と不満を口にする。
- 香が自宅に帰った際、里子からクラッシュギャルズのサインを頼まれる。職場の人が欲しがっているからとたくさん頼まれ、香も「私と千種は親友だから」と快諾するが、そのたくさんのサインが五郎の金儲けに利用されることになる。
- デビル軍団に入り、自分用の凶器を準備するように言われる香と本庄。しかし、どこで入手すればよいのかわからずホームセンターのDIYコーナーで頭を悩ませることに。「凶器ってどこで買うんだ?」
- 中野恵子が入門。後にブル中野となる彼女も、最初はクラッシュギャルズにあこがれる少女だった。
極悪女王4話
ダンプ松本になった香はクラッシュギャルズに敵意むき出しでデビル雅美とも反目。デビル軍団は解散し、本庄と極悪同盟を結成します。ダンプ松本の登場でさまざまなところにひずみが生じてきます。
あらすじ
ダンプはデビル雅美と組んでクラッシュギャルズと対戦するが、試合中にデビルと仲間割れ。
「うちはあんたらみたいなクラッシュの太鼓持ちにはなりたくないんだよ。」(ダンプ)
激怒したデビルは試合中にデビル軍団の解散を宣言。マスクドユーこと本庄ゆかりも流れでダンプサイドにつくことになり、ダンプ松本と本庄ゆかりの二人で極悪同盟が結成される。
クラッシュギャルズの2人にもダンプの登場でひずみが生じる。ダンプの徹底した凶器攻撃に嫌気がさし「もっとまともなプロレスがしたい」と会社に申し出る飛鳥に対し、千種はダンプのようなヒールのおかげで自分たちも輝くことができるのだから、状況を受け入れるべきと主張。
飛鳥はメキシコに武者修行に出かけるジャガーから「帰ってくるまで全女はあんたに任せる」と言われより強く葛藤する。格闘技としてのプロレスを主張する飛鳥とエンタメとしてのプロレスを主張する千種の認識の違いは大きい。
ダンプ松本の登場は彼女の実家にも大きな影を落としていた。妹の広美は金髪に濃いメイク、スカジャンにロングスカートというヤンキー姿に激変。昔の面影はまるでない。姉のダンプにも反抗的な態度を取り、ダンプのせいで彼氏にフラれ、いたずら電話やおかしな手紙に翻弄されていると訴える。資金は出すから引っ越せというダンプの提案も拒否し、家族の迷惑を顧みずに好き勝手やるのは父親の五郎と同じだと食ってかかる。
ダンプは仲間たちにも行動規制をかける。ダンプ達が住む新人寮にきたベビー側の大森を「ベビーが来るところじゃねぇ」と追い出し、本庄や中野には「もうベビーとは口をきくな。本気で戦えねぇだろ!」と行動制限をかける。しかし、本庄は「ベビーもヒールも会社が作ったギミックだろ!」と新人寮を出て行ってしまう。極悪同盟の相棒が欠けてしまったためダンプは後輩の中野を新たな相棒に仕立てる。
全女はトヨテレビ杯オールジャパングランプリを開催する。ブックなしのガチンコ勝負による最強決定戦。トヨテレビの臼井はブックで視聴率が取れるカードを仕込もうと俊国に提案するが、社長の高司にはけんもほろろに拒否されてしまう。
準決勝の長与千種対ライオネル飛鳥戦の前。千種は武道館のメインにふさわしいのは自分だ、飛鳥とジャガーでは客は喜ばないと俊国にブックを直談判。俊国が難色を示したため社長にも掛け合うが、社長の高司は最終的にブックをせず。ガチンコ対決となった試合で千種は飛鳥に敗北してしまう。
決勝ではダンプは飛鳥に負けてしまう。千種を見つけたダンプは「ブザマに負けやがって!」と八つ当たりをするが、その光景を見ていた俊国は妙案を思いつく。
その他エピソード
- ダンプ松本の登場とともに阿部四郎がダンプ御用達のレフリーとなる。あからさまなえこひいきをして試合をダンプが有利になるように仕切る。
- デビル雅美と仲たがいしたことで移動のバスが気まずくなったダンプと本庄は、宣伝カーで移動することになる。
- クラッシュギャルズの給料は札束が立つくらい高額。
- 全女で実力ナンバーワンと言われるジャガーがメキシコへ武者修行に出かける。ジャガーは自分と同じく正統派のプロレスで勝負しようとする飛鳥を応援する。
- ダンプ、新人寮の2段ベッドに書いた自分と千種のサインをマジックで上塗りして消す。
- 松本家では五郎がダンプを売り、広美はヤンキーの彼氏と共に家を出る。大家からもダンプの家族は引っ越してくれと言われてしまう。
極悪女王5話
いよいよ最終話です。オールジャパングランプリで叶わなかったダンプと千種の一騎打ちが「敗者髪切りデスマッチ」という形で実現。伝説となった戦いを制したダンプですが、転機となる出来事が続き、引退を決意します。
あらすじ
オールジャパングランプリで待望されたダンプ松本対長与千種のカードが実現しなかったため、全日女子プロレスは改めて敗者髪切りデスマッチという形で両者の一騎打ちを行うと発表。中継するトヨテレビサイドには髪切りという残酷な試合をゴールデンで流すことに難色を示す向きもあったが、「長与千種が勝つ形なら」とブック前提で中継も決まる。全女はダンプに対し、ブックを飲む見返りに1000万円の報酬を約束。念書を書かせてブックの実現に万全を期す。
千種には国松がブックの話をする。「会社は本当にダンプば抑えてくれるとよね?」「レフェリー阿部四郎でブック破りとかありえんけんね」と懸念を示す千種に国松は「ダンプも了承済だ」と自信を見せる。ブックについて話終わった国松は、「あ、そうだ...」と思い出したようにバッグから大量の手紙を取り出し千種に手渡した。会社に届いていた千種宛の手紙だが差出人は「長与スエ子」。千種の母親からの手紙だ。千種は気まずそうに受け取るが読むことなくゴミ箱へ捨ててしまう。千種の親への確執は解消してない。
ダンプの父親、五郎が病院で「いつ心筋梗塞をおこしてなくなってもおかしくない状態」と警告を受け、禁酒をすすめられる。待合で待つ五郎と里子が観るテレビには、クラッシュの出演するトーク番組が放映され、そこでダンプとの確執が語られていた。二人はダンプの髪切りデスマッチをダンプが買ってくれた家で観戦することにする。
そしてついに髪切りデスマッチが行われる。髪切りデスマッチはトヨテレビの意向もあり、反則攻撃による決着を禁じた完全決着ルールで行われる。俊国は試合前日に「レフェリーにはしっかり言い聞かせた」と試合展開に自信を見せる。
入場時、ダンプはマスクを被り影武者を立てて入場し、会場をあっと言わせる。試合開始早々、千種を翻弄するダンプを眺めながら、阿部四郎が「わかんねぇもんだな。芽が出ないって営業までやってた子がこの大箱沸かすんだから」としみじみつぶやく。
試合はダンプの凶器攻撃に千種も凶器を奪って反撃し大流血試合となる。顔中血まみれの千種をなおも凶器で激しく攻撃するダンプ。大勢の観客たちの絶叫の中、セコンドについている選手たち、国松や俊国、トヨテレビの臼井も大いに狼狽するが、反則決着を禁じられているためレフェリーは試合を止めない。テレビで試合をみていたダンプの家族もダンプの暴走に絶望の表情を浮かべ、「なんでここまで・・・」と涙する。
意識が朦朧としてきた千種を見かねて飛鳥がタオルを投入するが、千種自身が「余計な事すんじゃねえ!」とタオルをリング外に投げ返す。足元がフラつき立っているのも苦しげな千種になおもフォークで襲いかかるダンプ。最後は椅子で千種の頭を強打し、千種がダウン。10カウントが入って千種のノックアウト負けとなる。
倒れた千種を見下ろすダンプの脳裏に、親友だったころの思い出が走馬灯のようによみがえる。ダンプはうっすらと涙を浮かべたが、意を決したように踵を返し、勝利の雄たけびを上げながら勝ちをアピールした。ダンプのブック破りに俊国をはじめ関係者は呆然と立ちすくしていた。
敗者となった千種はリング中央でレフェリーやダンプから髪を切られる。泣き叫ぶファンが見守る中、ダンプは目を見開き得意げに千種の頭を剃っていくのだった。
試合会場から両脇を支えられて帰ってきた千種に彼女の両親が駆け寄る。泣きながら「ごめんね」と抱きしめる母親に、「お母ちゃん」と千種も泣き崩れる。
後日。
テレビ中継されたダンプと千種の一戦は視聴率20%という驚異の数字をたたき出したが、放送終了後に抗議の電話が殺到。トヨテレビは全女のテレビ中継打ち切りを発表する。
会社にギャラを取りに来たダンプへの報酬はブック破りで大幅に減額。裏切られた俊国は怒り心頭だが、社長の高司は打ち切りになるくらい日本中を興奮させたとダンプの戦いぶりを評価し、個人的な祝儀をダンプに手渡す。
坊主頭になった千種の元に飛鳥がやってくる。練習に誘うが、「みんなうちの何を心配しとっとやろ」「どうせ心配するふりばして、うちの坊主頭見て面白がりたいだけやろ!」と拒絶。その様子に飛鳥も怒りを隠せず、「練習不足でプロレスの実力はまだまだ二流だよ」ときつい口調で言い返す。格闘技としてプロレスを見ている飛鳥と、エンターテイメントとしてプロレスを見ている千種。二人の認識の違いが大きな確執を生んでしまう。
飛鳥はジャガー横田にクラッシュギャルズの解散を相談する。プロレスに対して飛鳥と似た捉え方をしているジャガー。飛鳥に対して「全女をもっとよくしよう」と言っていたが、ジャガーの口から出たのは自身の引退の決断だった。
ダンプの元に父五郎が重篤な状態にあると連絡が入る。病院に急行すると母の里子が手術が終わるのを待っていた。里子は「香、おめでとう」とダンプにねぎらいの言葉をかけ、「あんたがホントはどういう子か、お母ちゃんちゃーんと知ってるから」と理解を示す。命がもうないと思われた五郎は手術が成功、奇跡的に命を取り留める。
マキ上田とジャッキー佐藤が久しぶりに対面。ジャッキーはマキにプロレス復帰を伝える。「もう少し駆け巡ってみるよ」。
ジャッキー佐藤が復帰したのは全女とは別団体のジャパン女子プロレス。全女の高司は面白くないが、クラッシュと極悪の二本柱があるので意に介さない。
しかし、ジャッキー佐藤の復帰はダンプや千種の心を動かす。ビューティーペアにあこがれてプロレスラーになり、強くなりたい一心でやってきたのに、いつの間にか多くのしがらみの中に入りこんでしまっていた二人。ジャッキーの復帰が初心を思い起こさせ、自分の立ち位置を考えるきっかけとなった。「うちらホントに強くなれたとやろか」
意を決したダンプは引退を発表し、千種もジャパン女子プロレスへの参戦を表明する。急な話で大慌ての松永三兄弟を後目に、二人は晴れやかな表情を見せる。
ダンプの引退試合。
家族も会場に駆け付け、クラッシュギャルズの二人がロープを下げてダンプをリングに招き入れるなど感傷的になりがちな状況の中、ダンプはいつも通りのヒールっぷりで凶器攻撃を繰り出す。千種や飛鳥は流血し、観客からの帰れコールが鳴り響く中、ダンプの反則攻撃がエスカレートし試合は無効試合となる。
ゴング後、飛鳥の「お前が最後にやりたかったプロレスはこれかよ!」との問いかけに、「これから本当のプロレスを見せてやる」「長与、こっちに来い。お前とは敵だけじゃ終われないんだ!うちと組んでもっかいやるぞ!」と応じ、延長戦をすることに。
「ダンプ松本はもう終わりだ。松本香で戦う。」
「うちらが強うなった姿、見せてやろうで」
凶器なしのクリーンファイトで場内は多いに盛り上がる。
その様子を眺めていた高司がフロアを後にして売店に向かうと、会場入り口で場内の様子をうかがう少女が立っていた。
「どうしたお嬢ちゃん、チケットないのか?」
高司の問いかけにうなずく少女。
「じゃあ、ちょっとだけ見ていくか。特別だぞ」
高司が少女をフロアに入れてやると、少女は目を輝かせながらリングで戦うダンプ達に見入るのだった。
関連本
全女時代のダンプ松本さんの心の葛藤や、友情、裏話などが書かれた一冊です。父親への思いや話題のお母さんの日記なども掲載されています。
ダンプ松本『ザ・ヒール』: 極悪と呼ばれて 平塚 雅人(著) 単行本1540円 |